ポータブル電源のリサイクル現場を実地取材。リチウム資源がどう循環するかをデータで追いました。
目次
リサイクル工場取材レポート
2025年5月、私たちは国内最大手のリチウムイオン電池リサイクル企業である東京都内の施設を取材しました。年間約3,000トンの使用済み電池を処理するこの工場では、ポータブル電源から回収されるリチウム資源が新たな製品として生まれ変わる過程を目の当たりにしました。
回収から分解までのフロー
回収されたポータブル電源は、まず専門技術者による安全点検を受けます。端子部分の絶縁テープ確認、外装の損傷チェック、残存電力の測定などを経て、分解工程に進みます。工場長の田中氏は「完全放電されていない製品が約30%含まれており、事前の安全処理が重要です」と説明します。
Step 2: 電解液抜き取り・安全処理(自動化設備)
Step 3: 正極・負極材料の物理的分離(破砕・選別)
リチウム抽出プロセス
分解された電池セルは、湿式製錬法により有価金属が抽出されます。取材で確認したリチウム抽出槽では、pH調整された溶液中でリチウムイオンが99.2%の高純度で回収されていました。この工程では、従来の鉱山採掘に比べてCO₂排出量を約65%削減できると考えられます。
回収率と環境効果の実データ
総務省の最新調査によると、2024年度のリチウムイオン電池回収率は全国で約5%にとどまっていますが、回収された電池の再資源化率は60.8%と高水準を維持しています。ポータブル電源については、一般社団法人ポータブル蓄電池リサイクル協会(PBRA)の設立により、回収体制の整備が進んでいます。
年度別回収率の推移
・2020年度:1,986トン(うちリチウムイオン電池730トン)
・2021年度:1,894トン(同666トン)
・2022年度:1,707トン(同592トン)
・2023年度:1,736トン(同589トン)
・2024年度:1,750トン(同725トン・回収率5%)
環境省の分析では、使用済みリチウムイオン電池の推計排出量は年間約17,000トンに対し、実際の回収量は725トンと大きなギャップがあります。しかし回収されたもののうち91.7%が再生利用・熱回収されており、資源循環の質は向上していると評価できます。
CO₂削減量の試算
LCA(ライフサイクルアセスメント)モデルに基づく試算では、ポータブル電源1台(容量1000Wh)のリサイクルにより、新規リチウム採掘と比較して約45kgのCO₂削減効果があると推測されます。年間回収量725トンから換算すると、約3万2千トンのCO₂削減に相当する可能性があります。
家庭でできる安全な廃棄準備
ポータブル電源を安全に廃棄するためには、適切な事前準備が不可欠です。リチウムイオン電池の特性を理解し、発火リスクを最小化する手順を踏むことで、リサイクルチェーンの安全性向上に貢献できます。
放電・端子テープ留め手順
手順2: 電源を完全にオフにし、24時間以上放置
手順3: 出力端子・入力端子を絶縁テープで完全に覆う
手順4: 製品全体を緩衝材で梱包し、「リチウム電池」と明記
特に重要なのは端子の絶縁処理です。JBRCの安全ハンドブックによると、絶縁テープは端子を「挟み込む」のではなく「巻きつける」方式で確実に固定する必要があります。不適切な絶縁は回収過程での発火事故につながる恐れがあります。
廃棄先としては、製造メーカーの回収サービス、家電量販店の回収ボックス、自治体の指定回収拠点などが利用できます。PSE認証マークがない製品の場合は、製造元への直接問い合わせが推奨されます。
まとめ
ポータブル電源のリサイクル現場取材を通じて、リチウム資源循環の実態が明らかになりました。現在の回収率5%という数値は決して高くありませんが、回収されたもののうち9割以上が適切に再資源化されており、技術的な基盤は整っていると言えます。
環境効果の面では、1台あたり約45kgのCO₂削減効果が期待でき、都市鉱山としての価値も高まっています。今後の課題は回収率向上にあり、消費者の適切な廃棄行動と回収体制の充実が重要となります。持続可能な社会の実現に向けて、私たち一人ひとりの行動が循環型社会の構築に寄与する可能性があります。
参考文献
- 令和3年度小型家電リサイクル法施行支援及びリチウムイオン電池等処理困難物適正処理対策検討業務報告書 – 環境省
- リチウムイオン電池等の回収・再資源化に関する調査結果報告書 – 総務省
- 小型二次電池のリサイクル(資源有効利用促進法) – 経済産業省
- 一般社団法人ポータブル蓄電池リサイクル協会
- 一般社団法人JBRC – 小型充電式電池リサイクル
- 統計データ – 一般社団法人 電池工業会
- リチウム蓄電池関係 – 環境省
- 蓄電池のサステナビリティに関する研究会 – 経済産業省
- リチウムイオン電池による発火トラブルのデータ集 – 日本容器包装リサイクル協会
- ポータブル電源は回収してもらえる?不要になった処分方法 – Jackery Japan
— 環境省リサイクル推進室 佐藤主任研究官