ポータブル電源

ポータブル電源の機内持ち込みとモバイルバッテリーの違い 容量表示で即判別

ポータブル電源の機内持ち込みとモバイルバッテリーの違い 容量表示で即判別

はじめに 空港で迷わないために

旅行や出張、キャンプ前に空港で迷わないため、容量表示から機内持ち込み可否を素早く判断できる知識を提供します。
主要ルールと現場対応の要点を整理し、保安検査を安心して通過できるよう、必要な計算式と航空会社規則の読み解き方を解説します。

用語と対象範囲 ポータブル電源とモバイルバッテリーの定義

一般的な製品像とセル化学

ポータブル電源とモバイルバッテリーは、どちらもリチウムイオン系の充電池を内蔵した携帯型蓄電装置ですが、製品設計と想定用途に明確な違いがあります。
モバイルバッテリーは主にスマートフォンやタブレット向けで、USB端子を備え、容量は10000~30000mAh程度が主流です。
一方、ポータブル電源はAC100V出力を持ち、ノートPC・カメラ・小型家電への給電を想定し、容量は100Wh超~2000Wh以上と大型です。
セル化学はどちらもLi-ion(リチウムイオン)が主流ですが、一部のポータブル電源はLiFePO₄(リン酸鉄リチウム)を採用し、熱安定性を高めています。

航空輸送の規則上、いずれも「予備電池(リチウム電池)」に分類され、手荷物での機内持ち込みが原則となります。
受託手荷物(預け荷物)への収納は一般的に禁止されており、これは短絡・発火リスクへの対策です。したがって、旅行者は製品ラベルを確認し、容量が規則の範囲内かを出発前に把握する必要があります。

本記事で扱う「容量表示」の前提

本記事では、製品のラベルや取扱説明書に記載されるmAh(ミリアンペアアワー)、V(電圧)、Wh(ワットアワー)という三つの単位を中心に解説します。航空規則は主にWhを基準としますが、多くの製品はmAhとVのみを表記しているため、自身で計算する場面が頻発します。
また、製品によってはセル構成(何本のセルを直列・並列に組んでいるか)により公称電圧が異なるため、単純にmAh値だけでは持ち込み可否を判断できません。

さらに、製品の外装や内部構造によって保安検査の扱いが変わる場合があります。例えば、ソーラーパネル一体型や防水ケース入りの製品は、検査員が目視でセルを確認できず、追加の説明や申告を求められることがあります。こうした前提を理解しておくことで、現場で冷静に対応できます。

容量表示で即判別 ラベルの読み方ガイド

mAh→Wh 変換式と計算例

ワットアワー(Wh)は、ミリアンペアアワー(mAh)と電圧(V)から次の式で算出します。

Wh = (mAh × V) ÷ 1000

例として、以下の三つの製品ラベルで計算手順を示します。

製品例 容量 (mAh) 電圧 (V) 計算過程 結果 (Wh)
小型モバイルバッテリー 10000 3.7 10000 × 3.7 ÷ 1000 37 Wh
中型モバイルバッテリー 26800 3.6 26800 × 3.6 ÷ 1000 96.48 Wh
小型ポータブル電源 30000 11.1 30000 × 11.1 ÷ 1000 333 Wh

上記の通り、同じ30000mAhでも電圧が異なれば結果は大きく変わります。
モバイルバッテリーは単セルまたは2~3セル並列が多く3.6~3.7Vが主流ですが、ポータブル電源は3セル直列(11.1V)や4セル直列(14.8V)が多く、Whが大幅に増加します。
このため、mAh値だけで「小さいから大丈夫」と判断するのは危険です。

何Whの目安と機内持ち込みの考え方

IATA(国際航空運送協会)危険物規則および主要航空会社の共通ルールでは、リチウムイオン電池の機内持ち込みは以下のように区分されます。

容量区分 持ち込み可否 条件・制限
100Wh以下 個数制限あり(航空会社により2~4個)、申告不要
100Wh超~160Wh以下 事前申告・承認が必要、通常2個まで
160Wh超 不可 機内持ち込み・受託手荷物ともに原則禁止

実務上、100Wh以下であれば保安検査でほとんど問題なく通過できます。100Whを超える場合は、チェックインカウンターまたは保安検査場で職員に申告し、ラベルを提示して承認を得る必要があります。
160Whを超える製品は、特別な許可がない限り持ち込めないため、旅行前に確認し、代替手段を検討してください。

目安として、26800mAh×3.7V=99.16Whは上限ギリギリで、これを超える製品は事前確認が推奨されます。

違いの要点 ポータブル電源 vs モバイルバッテリー

構造・出力端子・セル構成の違い

モバイルバッテリーは、円筒型またはポリマー型のセルを2~4本並列接続し、公称3.6~3.7Vを維持します。
出力端子はUSB-AまたはUSB-Cが中心で、DC5V~20Vの範囲で給電します。筐体は軽量プラスチックまたはアルミで、重量は200~500g程度です。

一方、ポータブル電源は複数セルを直列・並列に組み合わせ、11.1V、14.8V、さらには25.2Vなど高電圧を生成します。
DC-ACインバーターを内蔵し、AC100Vコンセント出力を提供するため、ノートPCや小型家電を直接駆動できます。筐体は金属製またはABS樹脂で、重量は2kg~20kg超と幅広く、容量が大きいほど重くなります。

この構造差が、保安検査での扱いの違いを生みます。モバイルバッテリーは小型で透視しやすく、X線検査でセル配置が明確に見えるため、追加確認を求められにくい傾向があります。
ポータブル電源は金属筐体やインバーター回路がX線画像を複雑にし、検査員が目視確認やラベル提示を求める確率が高まります。

保安検査で見られるポイント

保安検査では、以下の項目が重点的に確認されます。

  • 容量表示の有無 ラベルにWhまたはmAh+V表記があるか
  • 端子保護 短絡防止のためキャップや絶縁テープがあるか
  • 外観の異常 膨張・変形・破損・液漏れの兆候
  • 改造の痕跡 外装の開封跡、セルの交換跡、非正規部品の組み込み
  • 申告の要否 100Wh超の場合、事前申告の有無

特にポータブル電源は外観が一般家電に近く、検査員が「これは何か」を確認するため、製品名と用途を簡潔に説明できる準備が重要です。
英語での説明が求められる場合もあるため、次章で解説する申告テンプレートを参考にしてください。

IATA規則・航空会社ルールの読み解き

代表的な上限と「申告」の考え方

IATA危険物規則では、旅客が携行するリチウムイオン電池について、以下の基準を設けています。

100Wh以下の電池は個人使用の範囲で制限なし(航空会社により個数上限あり)。100Wh超~160Wh以下は航空会社の承認が必要で、通常2個まで。160Wh超は原則持ち込み禁止。

「申告」とは、チェックインカウンターで搭乗券を受け取る際、または保安検査場の職員に対し、「100Whを超えるリチウム電池を所持している」旨を伝え、ラベルを提示して確認を受ける手続きです。
航空会社によっては、Web予約時に事前申告フォームを提供している場合もあります。申告を怠ると、保安検査で没収されるリスクがあるため、事前確認を強く推奨します。

JAL/ANA/LCC での表現差と実務メモ

国内主要航空会社のヘルプページでは、以下のような表現差があります。

航空会社 100Wh以下 100Wh超~160Wh以下 申告方法
JAL 個数制限あり(通常2個) 事前連絡推奨、2個まで チェックインカウンターで申告
ANA 制限内で持ち込み可 事前申告必須、2個まで 予約センターまたはカウンター
LCC(Peach等) 個数制限あり(2~4個) 要問い合わせ、承認必要 コールセンター事前連絡

LCCは機材や路線により規則が異なる場合があるため、必ず公式サイトで最新情報を確認してください。
また、国際線では渡航先国の規則も適用されるため、経由地・到着地の規制も併せて調べることを推奨します。

現場で役立つ実例 ラベルの読み解きトレーニング

OK/NGの境界パターン

以下に、実際の製品ラベルを模した計算例と判定結果を示します。

製品 表記 計算 結果 判定
Anker PowerCore 10000 10000mAh / 3.7V 10000×3.7÷1000=37Wh 37Wh OK 申告不要
Anker PowerCore 26800 26800mAh / 3.6V 26800×3.6÷1000=96.48Wh 96.48Wh OK 申告不要
Jackery 240 67200mAh / 3.6V 67200×3.6÷1000=241.92Wh 241.92Wh NG 持ち込み不可
EcoFlow RIVER 2 28800mAh / 10.8V 28800×10.8÷1000=311.04Wh 311.04Wh NG 持ち込み不可
RAVPower 20000 PD 20000mAh / 3.7V 20000×3.7÷1000=74Wh 74Wh OK 申告不要

この表から、mAhだけでなく電圧を必ず確認する重要性が分かります。
67200mAhのJackery 240は、一見大容量ですが電圧が低いため241.92Whとなり、160Whを超えて持ち込み不可です。
一方、20000mAhのRAVPower製品は3.7Vで74Whに収まり、問題なく持ち込めます。

申告時の説明テンプレ(日本語/英語)

100Wh超~160Wh以下の製品を持参する場合、以下のテンプレートを参考にしてください。

日本語例
「こちらはリチウムイオンバッテリーで、容量は120Whです。ラベルに記載があります。事前申告が必要と伺いましたので、確認をお願いします。」
英語例
"This is a lithium-ion battery with a capacity of 120Wh, as indicated on the label. I understand that prior approval is required for batteries exceeding 100Wh. Could you please verify this?"

申告時は、ラベルを見やすい位置に提示し、必要に応じて取扱説明書や製品仕様書のコピーを携帯すると、検査がスムーズです。
また、保安検査場では英語対応が可能な職員がいるため、落ち着いて説明すれば理解してもらえます。

安全と取り扱い ケース・短絡防止・予備電池の扱い

耐燃バッグ・キャップ・端子保護

リチウムイオン電池は、短絡(ショート)や物理的衝撃により発熱・発火のリスクがあります。機内持ち込み時は以下の対策を推奨します。

  • 専用ケース 耐燃素材のポーチやハードケースに収納
  • 端子保護 USBポートやDC端子にキャップを装着、または絶縁テープで覆う
  • 個別収納 他の金属製品(鍵・コイン・ペン)と分離し、短絡を防ぐ
  • 取扱説明書 製品仕様を記載した書類を携帯し、検査時に提示

耐燃バッグは、万一の発熱時に延焼を防ぐための追加措置であり、航空会社によっては推奨または義務付けられる場合があります。
市販品はオンラインショップや空港の旅行用品店で入手可能です。

破損・膨張・改造の注意

以下の状態の電池は、機内持ち込み・受託手荷物ともに禁止されます。

外装の膨張・変形、液漏れ、異臭、発熱、衝撃による凹み、セルの露出、非正規部品への交換、外装の開封跡がある製品は持ち込めません。事前に製品を点検し、異常があれば使用を中止してください。

改造品や自作品は、セル構成や容量が不明確で、検査時に説明できないため、持ち込みを拒否される可能性が高まります。正規品の使用を強く推奨します。

よくある質問と誤解の整理

LiFePO₄ は有利か?容量同一時の扱い

リン酸鉄リチウム(LiFePO₄)は、Li-ionに比べて熱安定性が高く、発火リスクが低いとされますが、IATA規則上は同じ「リチウムイオン電池」に分類され、容量上限は同一です。
つまり、LiFePO₄であっても160Wh超の製品は持ち込めません。ただし、一部の航空会社では、LiFePO₄製品の申告を受け付ける際、安全性の説明が加点要素となる場合があります。

容量が同一(例: 100Wh)であれば、Li-ionとLiFePO₄の扱いは基本的に同じです。検査時にセル化学を尋ねられた場合は、製品仕様書を提示し、「リン酸鉄リチウム」と説明すればよいでしょう。

外箱の有無・付属ケーブルの扱い

製品を外箱に入れたまま持ち込むことは可能ですが、保安検査でX線検査の妨げになる場合、開封を求められることがあります。
外箱は受託手荷物に入れ、本体のみを機内持ち込み荷物に収納する方が検査がスムーズです。

付属のケーブルやアダプターは、電池本体と分離して収納しても構いません。ケーブルは金属探知機に反応しやすいため、トレイに出すよう指示される場合があります。
事前に小分けポーチに入れておくと、検査がスピーディです。

まとめ 空港での判断フローとチェックリスト

当日フロー(出発前~搭乗口)

以下の手順で、保安検査をスムーズに通過できます。

  1. 出発前 製品ラベルを確認し、mAh・V・Whを記録。計算結果が100Wh以下なら申告不要、100Wh超なら次ステップへ。
  2. チェックイン カウンターで「100Wh超のリチウム電池を持参しています」と申告し、ラベルを提示。承認を得る。
  3. 保安検査 電池をトレイに出し、X線検査を受ける。検査員から質問があれば、ラベルと仕様書を提示し、容量と用途を説明。
  4. 搭乗口 機内持ち込み荷物に電池を収納。座席上の荷物棚に入れる際は、端子が保護されているか再確認。
  5. 機内 充電は禁止。使用する場合は周囲の安全を確保し、異常を感じたら乗務員に報告。

持参物チェックリスト

  • 製品ラベルが見やすい状態(外装に貼付、またはラベル写真を印刷)
  • 取扱説明書または製品仕様書のコピー(PDF可)
  • 計算結果のメモ(mAh × V ÷ 1000 = Wh)
  • 耐燃ポーチまたは専用ケース
  • 端子保護キャップまたは絶縁テープ
  • 航空会社の危険物規則ページのURL(スマートフォンでブックマーク)
  • 英語の説明テンプレート(印刷またはスマートフォンのメモアプリ)

安心して出発するために

このチェックリストを出発前に確認し、ラベルと計算結果を準備しておけば、保安検査で迷うことはありません。安全で快適な旅をお楽しみください。

参考文献・引用資料

IATA Dangerous Goods Regulations 64th Edition – 国際航空運送協会 – https://www.iata.org/en/publications/dgr/ – 取得日 2025-01-10

JAL国際線 危険物について – 日本航空 – https://www.jal.co.jp/jp/ja/inter/baggage/dangerous/ – 取得日 2025-01-10

ANA 手荷物について – 全日本空輸 – https://www.ana.co.jp/ja/jp/international/prepare/baggage/ – 取得日 2025-01-10

Peach 危険物・制限品 – Peach Aviation – https://www.flypeach.com/lm/ai/airports/baggage/restriction – 取得日 2025-01-10

国土交通省 航空機への危険物の持ち込みについて – 国土交通省航空局 – https://www.mlit.go.jp/koku/15_bf_000253.html – 取得日 2025-01-10

成田国際空港 保安検査について – 成田国際空港株式会社 – https://www.narita-airport.jp/jp/security – 取得日 2025-01-10

関西国際空港 手荷物制限 – 関西エアポート株式会社 – https://www.kansai-airport.or.jp/baggage – 取得日 2025-01-10

Anker公式サイト 製品仕様 – Anker Innovations Limited – https://www.ankerjapan.com/ – 取得日 2025-01-10

Jackery公式サイト 製品仕様 – Jackery Japan株式会社 – https://www.jackery.jp/ – 取得日 2025-01-10

EcoFlow公式サイト 製品仕様 – EcoFlow Technology Japan株式会社 – https://jp.ecoflow.com/ – 取得日 2025-01-10

UN Manual of Tests and Criteria Part III – 国際連合 – https://unece.org/transport/standards/transport/dangerous-goods/manual-tests-and-criteria-rev7-2019 – 取得日 2025-01-10

IEC 62133-2:2017 Secondary cells and batteries – 国際電気標準会議 – https://webstore.iec.ch/publication/29311 – 取得日 2025-01-10

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