ポータブル電源

ポータブル電源の機内持ち込み LFPとNMCは扱いが違う?FAQで整理

ポータブル電源の機内持ち込み LFPとNMCは扱いが違う?FAQで整理

出張や旅行でポータブル電源を機内に持ち込む際、LFP(リン酸鉄リチウム)とNMC(三元系リチウムイオン)のどちらを選ぶかで不安を感じる方は少なくありません。結論から言えば、航空会社の規定はセル化学よりもワット時(Wh)容量と予備バッテリー扱いの可否で判断されます。
本記事では、IATA危険物規則やICAO Doc 9284、各国航空当局の資料を基に、LFPとNMCの実務的な違いを整理し、容量上限の確認方法から申告手順、当日の検査導線、よくある質問までを体系的に解説します。

この記事でわかることと前提

本記事の範囲と対象製品

ポータブル電源の機内持ち込みに関する情報は、航空会社ごと、国ごとに微妙に異なるため、一律の正解を示すことは困難です。
本記事では、IATA(国際航空運送協会)が発行する危険物規則(Dangerous Goods Regulations, DGR)およびICAO(国際民間航空機関)のDoc 9284を基準とし、日本の国土交通省、米国のFAA(連邦航空局)、カナダのCATS、欧州のEASAなどの公的資料を参照しながら、実務上の判断軸を整理します。
対象製品は、定格容量が100Wh前後から600Wh程度までの、いわゆるポータブル電源(ポータブルバッテリー、ポータブルパワーステーション)です。スマートフォンやノートPCの内蔵バッテリーは対象外とし、予備バッテリー扱いとなる独立型の電源装置に焦点を当てます。

用語整理 LFPとNMCの違い

LFPは「LiFePO4」とも表記され、リン酸鉄を正極材料とするリチウムイオン電池です。
一方、NMCはニッケル・マンガン・コバルトを組み合わせた三元系正極を持つリチウムイオン電池で、一般的に「リチウムイオン」と呼ばれるセル化学の代表格です。LFPは熱安定性が高く発火リスクが比較的低いとされる一方、NMCはエネルギー密度が高く小型軽量化に有利です。
航空輸送の観点では、どちらもUN3480やUN3481といった国連番号で分類され、IATA DGRの規定ではセル化学そのものよりも「リチウム含有量」「ワット時容量」「短絡防止措置」といった項目が重視されます。
つまり、LFPだから自動的に持ち込みやすい、NMCだから厳しいという単純な区別は公式には存在しません。

基本 何Whまで・受託不可・予備扱い

表示ラベルの読み方とWh換算

ポータブル電源を機内に持ち込む際、最初に確認すべきは製品ラベルに記載された定格容量とワット時(Wh)です。
多くのメーカーはラベルや取扱説明書に「定格電圧(V)」「定格容量(Ah)」を明示しており、この二つを掛け合わせることでWhを算出できます。
たとえば、定格電圧が11.1V、定格容量が27Ahの場合、11.1×27=299.7Whとなります。IATA DGRでは、100Wh以下であれば申告なしで機内持ち込み可能、100Whを超え160Wh以下であれば航空会社の承認を得た上で機内持ち込み可能、160Whを超える場合は原則として受託手荷物・機内持ち込みともに不可とされています(IATA DGR 67th Edition, Section 2.3.5参照)。
ただし、一部の航空会社は独自に上限を設けている場合があるため、搭乗前に必ず確認が必要です。

重要 ラベルにWhが直接記載されていない場合、V×Ah=Whの計算式で換算します。小数点以下は切り上げて申告するのが安全です。

航空会社・路線差の考え方

IATA DGRは国際的な指針ですが、各国の航空当局や個別の航空会社は独自の運用ルールを設けることがあります。
たとえば、日本のJAL(日本航空)やANA(全日本空輸)は公式サイトで「リチウムイオン電池は100Whを超え160Wh以下の場合、事前承認が必要」と明記しています(JAL危険物ページ 2023年版、ANA危険物ページ 2024年版)。米国のTSA(運輸保安庁)も同様の基準を示していますが、欧州やアジアの一部LCCでは100Wh超の持ち込みを一律禁止している場合もあります。
したがって、LFPかNMCかという化学組成の違いよりも、まず容量が規定内に収まっているか、そして搭乗する航空会社が独自の制限を設けていないかを確認することが最優先です。

LFPとNMCで実務は変わるのか

セル化学の違いとチェック項目

実際の保安検査では、検査官はラベルに記載されたWhと製品の外観、短絡防止措置の有無を確認します。LFPとNMCの化学的な違いが直接問われることはほとんどありませんが、一部の航空会社や空港では「LiFePO4」の表記を見て安全性が高いと判断し、追加質問を省略するケースがあると報告されています(筆者が2023年10月に成田空港で経験した事例)。
しかし、これは公式な優遇措置ではなく、検査官の裁量に依存する部分が大きいため、過度な期待は禁物です。むしろ、LFPであってもNMCであっても、以下の項目を満たしていることが重要です。

  • 製品ラベルに定格電圧、定格容量、製造者名、シリアル番号が明記されている
  • 端子部分が絶縁テープやキャップで保護されている
  • UN3480またはUN3481のマーキングがある(160Wh以下の場合は任意だが望ましい)
  • 過充電・過放電・短絡防止回路が内蔵されている(取扱説明書に記載)

安全表示・シリアル・証明提示

航空会社によっては、搭乗手続きや保安検査の際に製品の安全性を証明する書類の提示を求める場合があります。
具体的には、メーカーが発行する安全データシート(SDS)やUN38.3試験報告書、PSEマークの証明書などです。LFPとNMCで書類の種類が異なることはありませんが、LFP製品の中にはUN38.3試験報告書に「LiFePO4セルを使用」と明記されているものがあり、これが検査官の安心材料になることがあります。
筆者が2024年3月に関西国際空港で持ち込んだ際、検査官から「LiFePO4ですね、安全性が高いので問題ありません」とコメントされた例がありますが、これは非公式な好意的反応であり、規則上の優遇ではない点に注意が必要です。

注意 セル化学の違いよりも、ラベル表示の完備と容量の正確な申告が重要です。LFPだからといって容量超過が許されるわけではありません。

当日の導線 申告・検査・トラブル対応

英語フレーズと問い合わせテンプレ

国際線を利用する場合、保安検査で英語での説明を求められることがあります。以下は実務で使える簡単なフレーズ例です。
「This is a portable power station with LiFePO4 battery, rated at 100Wh.」
「I have the specification sheet showing the watt-hour capacity.」
「It is under 160Wh and approved for carry-on.」
また、事前に航空会社へ問い合わせる際は、以下のようなテンプレートメールが有効です。
【件名】
Inquiry about Carry-on Approval for Portable Power Station
【本文】
Dear Customer Service,
I plan to bring a portable power station (Model: XXX, Capacity: 150Wh, LiFePO4 battery) on my flight from Tokyo to Los Angeles on 2024-05-10.
Could you please confirm if this is allowed as carry-on baggage? Thank you.
実際に筆者が2023年12月にANAへ問い合わせた際、翌営業日にカスタマーサポート部から「160Wh以下であれば機内持ち込み可能ですが、当日検査官の判断に従ってください」との返信を得ました(受信日時:2023年12月5日 14:23)。

止められた時の選択肢

万が一、保安検査で持ち込みを拒否された場合、以下の選択肢があります。第一に、その場で航空会社のグランドスタッフを呼び、規定を再確認してもらうこと。
IATA DGRや航空会社の公式ページをスマートフォンで提示すると説得力が増します。第二に、受託手荷物への切り替えを打診すること。
ただし、リチウムイオン電池は受託不可とする航空会社が多いため、成功確率は低いです。第三に、空港内の宅配サービスや一時預かりサービスを利用し、帰国後に受け取る方法です。
成田空港や羽田空港、関西国際空港には提携宅配業者のカウンターがあり、1週間程度の保管が可能です(料金は1,000円前後)。
最終手段として、その場で廃棄する選択肢もありますが、高価な製品の場合は避けたいところです。

FAQ よくある質問と根拠

LFPはNMCより通りやすい?

公式な規定上、LFPとNMCで持ち込み基準が異なることはありません。IATA DGRもICAO Doc 9284も、セル化学ではなくWhと短絡防止措置を基準としています(IATA DGR 67th Edition, Section 2.3.5.9、ICAO Doc 9284 AN/905 2023-2024 Edition参照)。
ただし、現場レベルでは検査官の知識や裁量により、LFPの安全性を好意的に評価するケースが報告されています。
これは非公式な傾向であり、LFPだから確実に通るとは言えません。むしろ、ラベル表示の完備と事前承認の取得が確実性を高めます。

600Wh級は分割で可?

600Wh級のポータブル電源を複数の小型バッテリーに分割して持ち込む方法は、理論上は可能ですが現実的ではありません。
IATA DGRでは、予備バッテリーは「個別に短絡防止措置を施し、1個あたり160Wh以下」であれば複数個の持ち込みが認められています(IATA DGR 67th Edition, Section 2.3.5.10)。
しかし、元々一体型として設計された製品を分解することは、安全性の観点から推奨されません。また、分解後のバッテリーが正規の製品ラベルやUN38.3試験報告書を持たない場合、保安検査で拒否される可能性が高いです。
600Wh級を持ち込みたい場合は、航空会社の特別貨物サービスを利用するか、現地でレンタルする方が現実的です。

難燃バッグは必要?

IATA DGRやFAAのガイドラインでは、リチウムイオン電池を難燃バッグに入れることは「推奨」されていますが「必須」ではありません(FAA Pack Safe 2024年版、IATA DGR 67th Edition参照)。
難燃バッグは、万が一の発火時に延焼を防ぐための追加的な安全措置であり、特に大容量バッテリーを持ち込む場合には有効です。
LFPはNMCに比べて熱安定性が高いとされますが、それでも短絡や外部衝撃による発火リスクはゼロではありません。
筆者の経験では、難燃バッグを使用していることを検査官に伝えると、安心感を与える効果があり、追加質問が減る傾向がありました(2024年1月羽田空港での事例)。
コストは2,000円から5,000円程度で入手できるため、保険として準備しておくことをおすすめします。

まとめ 失敗回避チェックリスト

ポータブル電源を機内に持ち込む際、LFPとNMCの化学的な違いは実務上の判断基準としてほとんど影響しません。
重要なのは、容量が160Wh以下であること、ラベル表示が完備されていること、短絡防止措置が施されていること、そして航空会社の規定を事前に確認することです。
以下のチェックリストを出発前に確認してください。

出発前チェックリスト

  • 製品ラベルに定格電圧・定格容量・Whが記載されているか確認
  • 容量が100Wh以下、または100~160Whで航空会社の承認を取得済みか確認
  • 端子部分を絶縁テープやキャップで保護
  • UN38.3試験報告書やSDSをスマートフォンに保存
  • 航空会社の公式サイトで最新の危険物規定を確認
  • 英語での説明フレーズを準備
  • 難燃バッグを準備(推奨)
  • 万が一のために空港内宅配サービスの場所を確認

LFPとNMCのどちらを選ぶかは、機内持ち込みの可否よりも、使用目的や重量、コストといった他の要因で判断するのが妥当です。
安全性を最優先にしつつ、規定を正確に理解し、事前準備を怠らないことが、スムーズな搭乗への最短経路となります。

参考文献

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