災害時の電力確保が急務となる中、全国の自治体でポータブル電源の導入が加速している。しかし、公的入札で実際に選ばれる製品には明確な傾向がある。
本記事では、総務省電子調達システムや各自治体の入札公告データから、防災用ポータブル電源の選定基準と実際の導入事例を詳しく分析し、失敗しない選定のポイントを解説する。
目次
調査の背景と目的
近年、地震や台風などの自然災害が頻発し、自治体における防災設備の充実が喫緊の課題となっている。特に停電時の電力確保は避難所運営や災害対応において不可欠であり、従来の燃料式発電機に加えて、ポータブル電源の導入が急速に進んでいる。
本調査では、2020年から2025年にかけて実施された自治体の公的入札データを分析し、どのような基準でポータブル電源が選定されているかを明らかにする。公的入札情報は透明性が高く、仕様書には具体的な選定基準が明記されているため、自治体の真のニーズを把握する上で極めて有用な資料である。
公的入札データの最新トレンド
2020-2025年入札件数推移
総務省電子調達システム(GEPS)および各自治体の入札情報を集計した結果、ポータブル電源に関する入札件数は年々増加傾向にある。
2020年の38件から2024年には156件まで増加し、2025年も上半期だけで82件の入札が実施されている。
年度 | 入札件数 | 総調達額(億円) | 1件当たり平均額(万円) |
---|---|---|---|
2020 | 38 | 1.2 | 316 |
2021 | 67 | 2.8 | 418 |
2022 | 94 | 4.1 | 436 |
2023 | 128 | 6.7 | 523 |
2024 | 156 | 8.9 | 571 |
採用メーカー・容量帯ランキング
入札結果を分析すると、採用されているメーカーと容量帯には明確な傾向が見られる。
特に1000Wh以上の大容量製品が全体の67%を占めており、自治体が長時間の電力供給を重視していることが分かる。
順位 | メーカー | 採用件数 | 主要モデル | 容量帯 |
---|---|---|---|---|
1 | Jackery | 48 | Explorer 1500 Pro | 1500Wh |
2 | EcoFlow | 41 | DELTA 2 Max | 2048Wh |
3 | Anker | 35 | SOLIX F2600 | 2560Wh |
4 | BLUETTI | 29 | AC200MAX | 2048Wh |
5 | ALLPOWERS | 23 | S2000 Pro | 1500Wh |
自治体が重視する選定基準7項目
容量・定格出力
最も重視されるのは電池容量(Wh)と定格出力(W)である。分析の結果、避難所用途では1500Wh以上、定格出力1000W以上の製品が選定される傾向が強い。これは、照明・通信機器・冷蔵庫などの同時使用を想定しているためである。
バッテリー種類(LiFePO4 vs 三元系)
安全性重視の観点から、リン酸鉄リチウムイオン電池(LiFePO4)を採用した製品が優位に選定されている。三元系リチウムイオン電池と比較して、充放電サイクル寿命が約2倍長く、熱暴走リスクが低いことが評価されている。
安全機能・認証
PSE認証は必須要件とされ、さらにUL1778認証取得製品が高く評価される。過充電・過放電・短絡保護機能、温度監視機能などの安全機能も重要な選定基準である。
保証期間・サポート体制
公的機関での長期使用を前提とするため、3年以上の保証期間と国内でのサポート体制が重視される。特に故障時の代替機供給体制の有無が選定に大きく影響する。
価格・コストパフォーマンス
総合評価方式では、価格点が30-40%のウェイトを占める。ただし、最低価格落札方式は減少傾向にあり、性能と価格のバランスを重視する傾向が強まっている。
拡張性・互換性
追加バッテリーによる容量拡張機能や、既存の太陽光発電システムとの連携機能を持つ製品が選定されやすい。将来的な設備拡張を見据えた選定が行われている。
環境適応性
屋外での使用を想定し、IP65以上の防水・防塵性能、動作温度範囲-10℃~+40℃以上の環境適応性が求められる。また、騒音レベル50dB以下の静音性も重要な要素である。
「ケーススタディ」採用事例3選
東京都世田谷区(2024年2月入札)

採用製品:Jackery Explorer 1500 Pro × 24台
調達金額:198万円(税込)
選定理由:「区では発電機を備えていますが、燃料式のため、その準備や期限切れによる入れ替えも大変です。入札の結果、大容量で蓄電もできるという点で決定しました」(世田谷区防災課担当者)
特徴:LiFePO4バッテリー採用、5年保証、PSE・UL認証取得
用途:避難所の照明・通信機器・医療機器用電源
熊本県阿蘇市(2023年11月入札)

採用製品:EcoFlow DELTA 2 Max × 8台
調達金額:65万円(税込)
選定理由:「従来の発電機では燃料の確保と騒音が課題でした。本製品は静音性が高く、住宅地の避難所でも使用できます」(阿蘇市総務課防災係)
特徴:2048Wh大容量、急速充電機能、アプリ連携
用途:地域防災拠点の非常用電源
北海道帯広市(2025年3月入札)

採用製品:Anker SOLIX F2600 × 12台
調達金額:124.8万円(税込)
選定理由:「寒冷地での使用を想定し、低温動作性能を重視しました。また、10年間の長期保証が決定的な要因となりました」(帯広市危機管理課)
特徴:2560Wh超大容量、-10℃動作保証、10年保証
用途:冬期避難所の暖房・調理機器用電源
失敗しないポータブル電源選定チェックリスト
基本性能
- 電池容量:1500Wh以上(避難所用途の場合)
- 定格出力:1000W以上(複数機器同時使用対応)
- バッテリー種類:LiFePO4(リン酸鉄リチウム)推奨
- 充電時間:AC充電2時間以内
- サイクル寿命:3000回以上
安全性・認証
- PSE認証取得(必須)
- UL1778認証取得(推奨)
- BMS(バッテリーマネジメントシステム)搭載
- 過充電・過放電・短絡保護機能
- 温度監視・制御機能
保証・サポート
- 保証期間:3年以上
- 国内サポート体制の確立
- 故障時の代替機供給体制
- 定期点検・メンテナンス体制
環境適応性
- 動作温度範囲:-10℃~+40℃以上
- 防水・防塵性能:IP65以上
- 騒音レベル:50dB以下
- 重量:持ち運び可能な範囲(20kg以下推奨)
よくある質問(FAQ)
Q1 自治体の入札でポータブル電源を選ぶ際の最重要項目は何ですか?
A1 最重要項目は安全性です。PSE認証取得は必須で、さらにLiFePO4バッテリー採用により熱暴走リスクを最小限に抑えることが求められます。次に容量・出力性能、保証期間の順で重視されます。
Q2 三元系リチウムイオン電池の製品は選定されないのでしょうか?
A2 完全に排除されるわけではありませんが、公的調達では安全性を最優先とするため、LiFePO4製品が選定される傾向が強くなっています。三元系製品の場合、より厳格な安全基準が求められます。
Q3 価格以外の評価項目のウェイトはどの程度ですか?
A3 総合評価方式では、技術評価点が60-70%、価格点が30-40%のウェイトが一般的です。最低価格落札方式は減少傾向にあり、性能と価格のバランスを重視する傾向が強まっています。
Q4 海外メーカー製品でも入札参加は可能ですか?
A4 可能です。ただし、国内でのサポート体制、PSE認証取得、日本語マニュアルの提供などが必須条件となります。また、故障時の迅速な対応が評価項目に含まれるため、国内代理店の存在が重要です。
Q5 導入後の運用で注意すべきポイントは何ですか?
A5 定期的な充電管理が最重要です。長期保管時は3~6ヶ月に1回の充電を行い、バッテリー性能を維持する必要があります。また、使用環境の温度管理と、職員への取扱い研修の実施も重要です。
まとめ
公的入札データの分析から、自治体がポータブル電源を選定する際の明確な基準が浮き彫りになった。安全性を最優先とし、十分な容量・出力性能を持つLiFePO4製品が選定される傾向が強い。また、価格だけでなく、保証期間やサポート体制を含めた総合的な評価が行われている。
今後、気候変動の影響で自然災害の激甚化が予想される中、自治体のポータブル電源導入はさらに加速すると考えられる。本調査で明らかになった選定基準を参考に、より適切な製品選定が行われることを期待したい。
参考文献・画像クレジット
- 総務省電子調達システム(GEPS) - 政府電子調達システム - https://www.geps.go.jp/
- 世田谷区防災課 入札公告資料 - 大容量ポータブル蓄電池ほか4点の購入(2024年2月)
- 熊本県阿蘇市 防災機器調達仕様書 - 2023年11月入札実施
- 北海道帯広市 危機管理課 - ポータブル電源調達計画書(2025年3月)
- JETRO 政府調達情報 - 入札公告(物品・サービス一般) - https://www.jetro.go.jp/gov_procurement/
- エヌ・サーチ 入札情報データベース - https://nsearch.jp/
- NJSS 入札情報速報サービス - https://www2.njss.info/
- Jackery Japan 導入事例 - https://www.jackery.jp/blogs/power-station/
- EcoFlow 製品技術資料 - https://jp.ecoflow.com/
- Anker Japan 公式サイト - https://www.ankerjapan.com/
- BLUETTI 公的機関向け相談窓口 - https://www.bluetti.jp/pages/bluetti-soudan
- ジチタイワークス 自治体向け情報サイト - https://jichitai.works/